1/31 院内勉強会「産後の骨盤痛・腰痛に対する理学療法」について
こんにちは。理学療法士の羽生です。今回は「産後の骨盤痛・腰痛に対する理学療法」について勉強会を行いました。
産後のマイナートラブルとは、妊娠によるホルモンの変化、体型、体重、姿勢の変化などにより起こる不快な症状のうち、病気や合併症が原因ではないものをいいます。整形外科で対応することのあるものに「産後の骨盤痛、腰痛」があります。
妊娠・出産による体形の変化は、妊娠2か月頃より乳房の増大が始まり、妊娠5か月頃から腹部が前方へ突出する形で大きくなります。妊娠中に約8~10㎏増加した体重は、分娩により胎児や胎盤等の約4~6kg減少し、産褥期にさらに約4kg減少し、産後6ヶ月で非妊娠時の身体状態に戻ります。この体型の変化を受け、姿勢は安定性を高めるように変化し、矢状面では骨盤前傾・胸椎後弯・腰椎前弯が増大し、前額面では股関節外転・外旋位となります。
この体形、体重、姿勢の変化は、腰背部の筋肉への過剰なストレスにつながり、痛みにつながります。さらに姿勢変化に対応し、バランスを保とうとして下腿三頭筋の筋痙縮が起こりやすくなります。また、リラキシンというホルモンは、恥骨結合や仙腸関節の弛緩性を増加させるため、骨盤は下方に開大し、骨盤の底面積が拡大する変化が見られます。その結果、体幹の安定に重要なインナーマッスルの一つである骨盤底筋群は引き伸ばされます。このため、骨盤底筋群のバランスが悪くなると姿勢が保ちにくくなります。
以上のようなメカニズムで骨盤痛や腰痛が引き起こされます。
評価では、問診による出産数や年齢、分娩形式、身長や体重の変化の聞き取りによって、出産により身体にどのような変化が起こっていたのかを把握します。さらに体幹機能に大切な腹横筋を触診したり、妊娠によって腹直筋離開(腹直筋の腹部正中線上における離開)が起きている場合があり腹直筋の触診を行います。疼痛誘発テストでは、仙腸関節の前方離開と後方圧縮、仙腸関節の前方圧縮と後方離開を行い疼痛の再現性や部位を確認します。
体幹機能の評価では、片即起立やASLR(下肢伸展挙上テスト)がうまくできるか、どの部位に痛みが出るかを把握することが原因部位の特定に有用です。体幹と下肢間の力の伝達がどこで破綻しているのか推測します。ASLRでは、さらに以下のいくつかの操作を加えることで、原因部位の詳しい特定が可能になります。(①内腹斜筋や腹横筋など腹部前方の筋膜の緊張を高める目的で、骨盤前方を両側から圧迫する操作、②多裂筋や胸腰筋膜などの緊張を高める目的で、骨盤後方を両側から圧迫する操作、③内腹斜筋や腹横筋、または骨盤底筋前方の緊張を高める目的で、恥骨結合辺りを両側から圧迫する操作、④腹直筋の緊張を高める目的で、腹部正中に左右の腹直筋を寄せるように圧迫する操作)
バードドックテストやリバースASLRは、体幹機能に加えて大殿筋筋力の評価に有用です。
リハビリテーションでは、評価の結果判明した原因部位に合わせて介入を進めます。体幹機能向上のため腹横筋のトレーニングとしてドローインを行います。また、座りながら肛門括約筋・尿道括約筋を収縮させて行う骨盤底筋のトレーニングを行います。大殿筋の下部線維は仙結節靭帯と連結しており、仙腸関節の挙動に関与しています。このため、ブリッジ運動や膝屈曲位でハムストリングスを緩めた状態での大殿筋の筋力トレーニングなどが有用です。また、殿筋の収縮時に体幹筋を協調して使えるよう、腹部と殿部の収縮入れながらブリッジ運動を行うトレーニングもおすすめです。
改善には、自宅で取り組むホームエクササイズが欠かせないと考えています。当院では、リハビリの際にホームエクササイズの提案をさせていただいています。妊娠や産後の骨盤部痛、腰痛でお困りの方はぜひお越しください。
これからも、皆さんのお役に立てるよう、研鑽を続けたいと思います。よろしくお願いいたします。
理学療法士 羽生