10/11 院内勉強会「腱板断裂による肩峰下インピンジメントに対するリハビリテーション」について
今回は「腱板断裂による肩峰下インピンジメントに対するリハビリテーション」について勉強会をしました。
肩関節は、浮遊関節であり、非常に不安定な関節です。体幹との骨性の連続性は鎖骨一本のみで、主に筋・腱・靱帯により支えられています。すなわち、肩関節は筋・腱・靱帯の部分的な障害によりバランスを崩しやすく、腱板断裂がその典型になります。この、バランス不良の結果、上腕骨頭が求心位を外れ、インピンジにいたり、痛みにつながります。
腱板断裂による肩峰下インピンジメントは、その病態から①機械的タイプ、②機能的タイプ、両者が混在する③混合タイプの3つのタイプに分類されます。
①機械的タイプ:関節窩に対する求心性は保たれているが、腱板断端が翻転したり、断裂腱板や滑液包の腫脹や肥厚、肩峰や大結節の骨棘形成など、組織の形態異常によりインピンジするタイプのことです。
②機能的タイプ:腱板や肩甲帯の機能低下による求心性の乱れが原因でインピンジするタイプです。主な機序として次の4つが考えられます。
a、動的安定化機構(force couple)の破綻
上腕骨を動かす筋肉の中で相対する組み合わせをforce coupleと表現します。これらが前後、上下でバランスが取れていることが動的安定に欠かせません。上下のバランスを保つcoronal force coupleと前後のバランスを保つtransverse force coupleがあります。coronal force coupleは、上方の三角筋と下方の肩甲下筋・棘下筋・小円筋で構成され、transverse force coupleは、前方の肩甲下筋と後方の棘下筋・小円筋で構成されます。腱板断裂でこれらのバランスが崩れると、インピンジにつながります。
b、静的安定化機構の破綻
肩甲上腕関節はの可動域の最終域に達すると、伸張される側の関節包・関節上腕靱帯が静的安定化機構として緊張し、骨頭の求心性を保つように働きます。この関節包に局所的な拘縮が生じると、最終域に達する前に関節包・関節上腕靱帯が過度に緊張し、骨頭が求心位を外れ偏位します。 これをObligate translationと言います。
c、上腕骨外旋運動の障害
腱板断裂症例の54%に上腕骨の外旋制限を認めたと報告があります。挙上運動の際に大結節は、上腕骨頭の外旋に伴い肩峰下を通過し後下方へ移動します。腱板断裂の影響で上腕骨の外旋が制限されると、肩峰下に大結節がぶつかるインピンジメントにつながります。
d、上腕骨に対する肩甲骨の追従機能低下
肩甲骨には、上腕骨頭の動きに合わせ関節窩の位置を調整し求心性を保持する機能があり、追従機能と呼ばれています。この機能の低下も求心性の乱れからインピンジにつながります。
上記に挙げた4つの機序が単独で関与するわけではなく、a~dのうち複数が併存し病態を形成します。
今回は、インピンジメントの評価方法とリハビリテーション(運動療法)を確認しました。
評価① インピンジテスト:徒手誘導にて好発部位である烏口肩峰アーチや肩峰下滑液包、肩甲下関節包の内圧を変化させ、痛みの誘発の有無を評価します。
評価②エコー:エコーは、動的評価が可能な画像評価装置です。回旋運動を行いながら上腕骨頭を観察すると、運動中の上腕骨頭の偏位の有無、つまりObligate translationの有無を確認することができます。肩の姿勢を変えてObligate translationの様子を観察することで、原因となっている柔軟性低下の部位を推測することが可能です。
リハビリテーション(運動療法)では、この4つの機能的インピンジメントの機序を考慮し介入します。
腱板断裂では、棘上筋や棘下筋が断裂していることが多いです。このためaの動的安定化機構(force couple)の破綻の場合は、残された肩甲下筋と小円筋の機能回復が鍵になります。これらの筋肉に対するダイレクトストレッチによる柔軟性の改善と筋力トレーニングを実技として確認しました。
上腕骨の外旋運動では、主に棘下筋、小円筋などが働いています。棘下筋に断裂がある場合、cの上腕骨外旋運動の障害につながります。この場合は、残っている棘下筋と小円筋の機能改善と図ります。今回は、机上に肘をついて上肢帯を安定させ、肩甲骨の代償運動が抑制された状態で、肩関節の外旋運動を行うエクササイズを実技として確認しました。
dの上腕骨に対する肩甲骨の追従機能低下の場合、肩甲骨周囲筋はもちろんですが、肋骨や胸肋関節など胸郭に対するアプローチが必要です。今回は、四つ這いや座位姿勢で肩甲骨と胸郭の運動に合わせて深呼吸をすることで肋骨の可動性を改善するエクササイズを確認しました。
肩関節の痛みでお困りの方がいましたら、ぜひ当院へお越しください。これからもより良いリハビリテーションを提供出来るように努めていきます。
理学療法士 高石